組込み情報

ITからETへ

○今、組込みがおもしろい!(ITからETの時代へ)

 「デジタル社会」、「ユビキタス社会」等、最近の我々の周りには、新しい生活環境を暗示させる言葉が飛び交っています。また、日本が世界で生きていくための方向として「ものづくり立国」なる言葉も頻繁に登場します。

 現実の生活においても、お財布機能つきの携帯電話があれば、ほとんど現金なしでも暮らすことができたり、音楽もiPodや音楽携帯があれば、いつでもどこでも聴くことができたりします。自動車も衝突防止機能やハイブリッド機能など、目をみはる能力を備えるようになっています。

 まさに、SF小説や漫画の世界で描かれていた物語が、現実のものとして実現されようとしており、我々はその中で暮らし始めています。

 この新しい世界を創るための技術が「組込みシステム(Embedded System)」といわれるものです。今ではほとんどの工業製品にコンピュータが組み込まれ、その上で稼動するソフトウェアにより、製品の機能が実現されています。もはや、現代生活は組込みシステム無くしては存在しません。これら各種の製品に組み込まれて、その制御を行うコンピュータシステムを「組込みシステム」、ソフトウェアを「組込みソフトウェア」と呼んでいます。

 そして、これら組込みシステムの開発に携わる「組込みシステム技術者」こそ、今、最も創造的で活力がある職業であるといえます。世に新しい世界を創る機会にめぐまれるチャンスは、そうそうありません。「組込みシステム技術者」こそが、人類の未来を決定するといっても過言ではありません。今、時代はIT(Information Technology)からET(Embedded Technology)へと動いているのです。

○ユビキタス社会

 最近「ユビキタス」ということばを、色々なところでみるようになりました(TVCMにも登場してます)。ユビキタスはラテン語で「遍在」という意味からきたことばです。遍在とは、「どこにでもある」という意味で、情報通信の世界で用いられる場合は、「いつでも、どこでも、誰とでもコンピュータやネットワークを利用できること」を意味します。すなわち、あらゆるものにコンピュータが入りネットワークでつながれる環境のことといえます。

 ITということばも巷にあふれていますが、IT自体はまだまだすべての人が利用している、あるいは恩恵にあずかっているとは言えません。このITがあまねくすべての人に恩恵を与えることをユビキタス・コンピューティングと呼び、それが実現する社会をユビキタス社会と呼びます。

 家電製品や自動車などにコンピュータを組込み、使い勝手をよくしたり、遠隔操作をしたり、ネットワークから情報をとったりすることにより、特別にITを意識しないでもその恩恵を受け、生活の利便性が飛躍的に向上することになります。

 日本は、世界でも最も早くユビキタス・コンピューティング環境の世界に突入しようとしています。そして、このユビキタス社会を支える技術こそが、組込み技術なのです。

○品質要求と不足する技術者

 ユビキタス社会では、全く無意識のうちに、新しいテクノロジーの世界の中で生きることになっています。家電製品、自動車、携帯電話等、組込み技術なくしては、もはや製品として存在することは出来ません。お米を炊くこと、洗濯をすること、電話をかけること等、日常生活のすべてが、組込み技術の中に存在しています。

 このような時代の中で、技術者に求められる能力も革命的な変貌を遂げようとしています。いまや、あらゆる「ものづくり」の技術を、コンピュータの技術なして語ることは不可能になりました。 組込みシステムを実現する組込みソフトウェアはハードウェア性能の向上や機能要求の高度化とあいまって、飛躍的に規模が大きくなり、複雑になってきました。組込みソフトウェアには短期間で品質の高いソフトウェアを開発することが要求され、組込みソフトウェア技術の水準が今後の我が国の国際競争力やものづくりの水準を左右するといえます。自動車の制御ソフトウェアに不具合がでれば、それは人の命にかかわりますし、2006年に発生したシンドラー社のエレベーター事故も制御ソフトの不具合がその一因とされています。携帯電話のソフトのバグによる通話不良等、組込みソフトウェアの品質にかかわる報道が頻繁に聞かれるようになっています。

 このように、ソフトウェア技術者への要求は高まる一方、現状の組込みソフトウェア技術者の不足は大きな問題となっています。2006年6月に経済産業省が発表した「2006年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書」によると、現在約19.3万人の技術者がいると推定されているものの、なお約9.4万人程度の技術者が不足していると考えられています。

 繊細なものづくりの技術こそは、日本の風土の中で、先人達が研鑽を重ねて創造してきた我が国の宝です。また、東京大学大学院の坂村教授が提唱したトロンOSは、組込みソフトウェアにおいては、世界のディファクト・スタンダードOSの一つとなっています。我々は、我が国の土壌で育った最新のテクノロジーを次世代に伝え、育て、世界に発信し、人類の進歩に貢献することができます。古今東西、社会の進歩や事業の発展はいかに優秀で、感性豊かな人間を育てられるかに懸かっています。「人が豊かに生き、明日を夢見ることが出来る!」そんな社会の実現は組込みエンジニアの双肩にかかっているようです。

○組込みソフトウェア技術者に求められるスキルとETSS

 組込みシステム開発には、ソフトウェアだけでなく、メカニクスやエレクトロニクスなどの動作の背景となる知識等の幅広い知識が求められます。

 政府としても、組込みソフトウェアの開発力強化のための人材育成と人材活用を図ることが必要であるとの認識から、経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)SEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)が提唱しIPAがETSS(Embedded Technology Skill Standards;組込みスキル標準)を策定、公表しました。ETSSは、組込み技術者に求められるスキル基準として策定したものです。 2005年5月に2005年版ETSSのスキル基準が公表され、その後、2006年6月にキャリア基準と教育研修基準が正式リリースされ、次の3つの要素で構成される現在のETSSの姿となりました。


  • 組込みソフトウェア開発スキルを体系的に整理するためのフレームワークとしての「スキル基準」
  • 組込みソフトウェア開発に関わる職種名称や職掌を定義する「キャリア基準」
  • 組込みソフトウェア開発に関する人材育成を実現する「教育研修基準」

  •  これまで、組込みの世界は、職人的色合いが強く、求められるスキル等について体系化されたものがなく、人材育成のネックの一つとなっていました。ETSSの登場により、人材育成の可視化に好影響を与えるものと期待されています。

    *ETSSの詳細は、SECのホームページでご確認下さい。
    http://sec.ipa.go.jp/index.php